天然歯の表記方法として、日本では例えば上顎右側犬歯なら、下顎左側第1大臼歯ならというように表すPalmer Notationによる歯式が一般的に用いられています。また、アメリカではUniversal Numbering System、ヨーロッパではFDI Two-Digit Notationによる歯式が主として用いられています。これらの歯式を用いることによって、天然歯の残存状態、欠損状態や病名、補綴様式などを表現することができ、天然歯にかかわる歯科医療のあらゆる局面で円滑なコミュニケーションが可能となっています。
一方、歯科インプラントに関しては、長年欠損部位におけるインプラントの存在やインプラント補綴の様式とその範囲などについて表現する統一された方法がありませんでした。このような不便を解消するため、我々はインプラントのための歯式を考案し、発表しました1。治療計画立案時をはじめ、カルテ、手術記録、学術論文、技工指示書などに記述する際には、歯列の様々な状態を記号すなわちインプラント歯式を用いて表現することによって、容易に関係者間のコミュニケーションが図れるようになりました2。さらには患者さんにお渡しする治療計画の説明文書、治療費見積書や請求書、治療結果の記録なども、視覚に訴える分かりやすいものとなります。また、近年増えているとされるインプラント治療に関連したトラブルを扱う際にも、様々な立場の人たちが共通の表現を用いる事で円滑なやりとりが可能になると思われます。
我々はUniversal Numbering SystemとFDI Two-Digit Notationにもインプラント歯式を応用する方法を考案し、Palmer Notationにおける使用法と併せて、Journal of Prosthodontic Researchに論文を発表しました3。また、このインプラント歯式を用いることでインプラントを含む歯列の状態が一目で概観できることから、この方式をPanoramic Implant Notation System (PIN System;ピンシステム)と名付けました。そして、多くの方々にお使いいただけることを目的としてフォントを開発し、PiN
という名称のフリーウェアとしてリリースすることになりました。主に日本で使われているPalmer Notation用のバージョンを提供させていただきます。参考文献