「予約制」の維持

歯科ではほとんどの医院が予約制をとっていますが、医科では予約制はまだそれほど普及していません。当院でも予約制をとっていますが、なぜ歯科は予約制なのか、また、予約制を維持するためにはどのような困難が伴うかについて述べたいと思います。

歯科では虫歯を削る、歯の清掃をする、あるいは型を採るといった処置(この言葉は実際に患者さんに対して何かする、という意味で使われます)が多いため、患者さん一人あたりにかかる時間が非常に長いです。

医科の病院、診療所では医師の診療時間が数分程度ということも多いでしょうから、混雑しているときに患者さんが数人ないし数十人待たれていてもなんとかなるのでしょうが、歯科では一人あたりの予約の大半は30分以上になります。もし、患者さんが自由な時間に来て良い、ということにすると、待ち時間が数時間、あるいはその日に診療できない、ということにもなりかねません。こういったことを避け、できるだけ多くの患者さんの治療に当たれるよう、予約制をとっています。

毎日診療をしていて、困ってしまうのは、痛いときはすぐに診て欲しいと言いながら、痛くなくなったら来なくなってしまう、という方がしばしばいらっしゃることです。来なくなってしまうだけでなく、それに伴い予約の直前、当日、ひどい場合は無断で予約をキャンセルされる方がいらっしゃいます。昨今、予約を軽視されている方は非常に多いです。

予約の変更やキャンセルが多い方には予約の時間を守っていただけるように、また、約束を守れる日に予約を取得して頂くようお願いしています。しかし必要がある方に実際にそのようにお願いをすると、怒る方がいらっしゃいます。怒る方の常識は、歯科医院の予約は自由に変更やキャンセルしても良い、連絡も後からでもかまわない、ということなのでしょう。キャンセル料がかからないことも一因でしょうか。また、衝突を避け、頻繁な予約の変更をとがめるような医院なり施設が少ないということの現れかもしれません。

ある患者さんの予約をお取りした後は、予約をお取りになったその患者さんのためだけにその時間を確保しています。当日のその予約まで、他の患者さんからその時間に診て欲しい、というご希望があってもお断りしています。

前もってご連絡いただけたならその時間に他の患者さんを診ることができますが、急にキャンセルをされるとその時間が全く無駄になってしまいます。それは他の患者さんの受診する機会を奪っていることになってしまいます。そればかりか、結果的にその後の時間が混雑することになります。一人の方がキャンセルや遅刻をされると、他の多くの患者さんにご迷惑をおかけすることになります。まじめに通ってくださっている方がたまにキャンセルをされることは時には仕方がないと思いますが、キャンセルの大半はそうではなく、上記のごとく予約を軽視されている方によるものです。まじめに通っている人が一部の人のために待たされる、というのはいかにも不公平ではないでしょうか。

自衛策として、キャンセルされることを見越して、予約を多めに取る医院もあります。しかし、その場合全員時間通りに来院された場合は全員をお待たせしてしまうことになります。そのようなことがよく起こると、当然のことながら、待たされることを見越して約束の時間よりも遅い時間に来院される方が一定の割合で出てきます。結果医院は余計に混雑し、遅れる方もさらに増え、という悪循環に陥ります。結果予約は予約ではなく、開始時間の「目安」になってしまいます。

予約制でなく「目安制」になってしまっては多くの方の時間を無駄にしてしまいますので、私の医院では予約は多めに取ることはしていません。お越しいただく患者さん方に極力予約を守って頂けるようにご協力していただきながら、待ち時間がほとんどない体制を保っています。